語り場『一人相撲』

好きな事だけ語る場

「君のそばにいたいのに」

劇団プレステージ 番外公演

公演期間 2016年2月12日~21日 全13公演

「君のそばにいたいのに」

 

CBGKでやる番外公演は初。普段メインのポジションが多い、平埜、猪塚、風間は同時期に別舞台、若手の太田、石原は別プロジェクト、加藤は安定の別舞台の稽古。というわけで、その他の14名での番外公演となった。ここ数年での番外公演はチームをふたつに分けて、少人数の体勢が多かったけれど、14名となるとやはり本公演のような感覚だった。脚本はお笑いで大活躍中のNON STYLE石田明さん。以前、お仕事で劇団員と一緒のお仕事をされ、それからの交流との事。ご本人も劇団の脚本をやることが夢と仰って下さっており、今回はリーダーの今井さんからのラブコールで実現した企画らしい。天下のアミューズと吉本が貧乏劇団の為に手を組むということに若干ビビる。今回の演出はリーダーの今井隆文。劇団の中でも外部のお仕事も多く、劇団内での演出を手掛けるのは、番外公演の「んざんび君。」「トーキョー・タイム・パラドクス」「『ゼツボー荘』より愛を込めて ぶち壊す!!!!!』に続く4作目。ただし、今までは100人程のキャパの千本桜ホールであった為、CBGKで演出を行うのは初めてだった。看板俳優の不在、脚本が石田明氏、初のCBGKでの番外公演、幕が開けるまで、詳しいストーリーも配役も未発表という、不安と期待が入り交じる初日の幕開けだった。

舞台は神の世界のシーンから始まる。神の世界の村長を演じる今井隆文、神の世界の住人のウンヌンを演じる長尾卓也が登場し、村長はウンヌンに、とある人間世界の家族の映像を見せる。長男の春日由輝が演じる香川輝樹は家族に対して反抗的な態度を見せる高校生で、学校の友達とはお金等の表面上の付き合い。株元英彰が演じる姉の長女の紗綾は、家族の関係に不満を持っている様子が見えるも家族とは距離を持ち、依存するように彼氏にお金を貢いでいる。信輝役を演じるのは大村学。芸人として活躍しているものの、家庭はおざなりで「自分が仕事をしているから今の生活がある」という考え方を持つ。母親の好恵役には坂田直貴。旦那が稼いだお金で株をやり、世間体を気にしつつも家庭内ではヒステリックで子供に手を焼いている。裕福だけど家族はバラバラ、現在の家族の持つ問題がテーマなのかなと感じる。そんな家族の様子をウンヌンに見せる村長は「この家族のもとに行き、家族を幸せにしてきなさい」と告げる。それが、神様になるための卒業試験なのだという。

香川家へホームステイとしてお世話になることになったウンヌンは、持ち前の明るさで家族を幸せにしようと奮闘する。しかし何故か上手く行かず、すべてが裏目に。車が家の塀に激突したり、キャッチボールをすればボールが高級な花瓶を割ったり、隕石が落ちてきたり。ウンヌンが香川家に来た途端に不幸が続く。高橋秀行が演じる、ウンヌンの兄のインダラが心配して人間界に降りてくるも ウンヌンは自身の存在に疑問を抱く。「自分は貧乏神ではないのか。人を幸せにできない自分はいらない存在なのではないか」ついには父親の不倫や脱税疑惑、家族の崩壊の危機が訪れる。「あなたが来てから不幸続きだわ!まるで貧乏神みたい!」好恵は耐え切れずウンヌンに口走ってしまう。ショックを受けるウンヌンは家を飛び出すが、そこに現れたのはウンヌンの両親だった。「自分も、なぜ貧乏神なんかに生まれてきてしまったんだと思ったこともあった」と優しく語りかける。「自分を必要としてくれる人は必ずいる。輝樹くんを助けてあげなさい」と。両親の言葉に背中を押されたウンヌンは再び香川家へ。そこでは長女の紗綾が誘拐されたと告げられる。慌てて紗綾を探しに行くウンヌン。香川家では「ありったけのおにぎりを持って公園へ来い」という謎の脅迫電話が掛かってくる。急いでおにぎりを作り公園へ行くと、そこには紗綾とインダラ、ウンヌンが待っていた。実は紗綾がインダラに頼んだ嘘の誘拐事件であった。紗綾は信輝に「パパも大変だったかもしれない。だけど、私もママも、言わないだけで輝樹もずっと大変だった」と本当の想いを吐露する。ウンヌンとインダラの計らいで、家族はおにぎりを食べることに。そして、ぽつりぽつりと仲の良かった頃の思い出話をし始め、少しずつ打ち解けていく。「一人でやってる気になっていたんだな。こんなにも頼りになる家族が居たのに」信輝の言葉に笑顔が戻る香川家。そんな中、突然現れる、小池惟紀演じる信輝の不倫相手のファン。男はナイフを持ち家族に襲いかかる。輝樹を庇って刺されるウンヌン。しかし相手は神様。ナイフは効かず、返り討ちにあってしまうファンの男。神様であることがバレてしまったウンヌンは神の世界へ強制送還されることに。「皆にはずっと迷惑かけてばっかりだったね」と自身が貧乏神だったことを謝罪するウンヌンに対して輝樹は「今の家族の笑顔があるのは、ウンヌンのおかげ」と話す。物の豊かさでは無く、心の豊かさを気付かせてくれるのが貧乏神の存在だと。「俺たち、友達だよね!」最初の時とは全く違い、輝樹の目には輝きが満ちていて、家族の表情も穏やかに。「ありがとう」とお互いに感謝を告げるウンヌンと輝樹。そしてウンヌンは神の世界へと帰っていく。最後は劇団お決まりの歌とダンスで〆る、かと思いきや、家の壁を突き破って登場する象、のキグルミを着た城築創。「父さん、母さん、こりゃ破産だね」の輝樹の台詞で幕が下りる。

 

ざっくりと説明するとこのような舞台でした。

その他の役に、父親の信輝を支えるマネージャーに向野章太郎。ウンヌンの父親に園田玲欧奈、母親に原田新平。神の世界のウンヌンの友達であり、人間世界の輝樹の友達役に、髙頭祐樹と岩田玲。紗綾の彼氏役と最後の象を演じた城築創。信輝の不倫相手のファン役と好恵を騙す訪問霊媒師役、カラスを演じた小池惟紀。全体的に、劇団の古株メンバーがメインとなる内容でした。普段メインとなるメンバーが不在でしたが、しっかりと今井さんは見せてくれた気がします。華やかさがなくてもいいじゃない。むしろ、普段メインでは見れないメンバーの芝居をじっくりと見れた気がして大満足でした。

以下はお一人ずつの感想。ひたすら長いので注意。

 

春日由輝:香川輝樹役

まず初めに、久々の男役に歓喜。そして男子高校生役。ご本人は29歳ですが、細くスラッとされており、スタイルも良く、かっこいい顔付きでいらっしゃるのですが、ここ数年間は女子役、又はオカマ役を演じられることが多い方でした。ご本人はわりと中性的な雰囲気を持つ方なのですが、今回はメインの役であり、完全に男性の役。劇場やツイッター上では春日さんのかっこよさに湧き上がる様子をお見かけすることが多く、春日さんファンの方良かったね!と思うと共に、今後も男性役も見れたらなーと思いました。春日さんは古くから在籍しているメンバーですが女性役を演じることが多かった為、普段はメインというよりは脇で支えるポジションの方なんですよね。今回春日さんのお芝居をじっくりと拝見してみて、声も聞き取りやすいし、表情も見ていて引き込まれる、大きな芝居のとちりも無く、安定性のある方なんだなと改めて感じました。後半での家族がバラバラになり、ウンヌンが出て行くシーンでの「何でそんなこと言うんだよ!ウンヌン頑張ってたじゃん!」の台詞が大好きでした。中盤の本音でウンヌンとぶつかっていくシーンでは、たぶん公演期間の中旬からだと思うのですが、ウンヌンを突き飛ばす動作が増えていて「おっ!」と思ったものでした。激情する芝居が大好き。

 

長尾卓也:ウンヌン

チラシを見た時から、完全に長尾さんは今回主役級の配役になるんだろうなとは思っていましたが、やっぱり主役でしたね。しかし鬼ではなく神様。ご本人の根っからの明るさと人当たりの良さがそのまま役になったような、そんなキャスティング。前公演の「Have a good time?」でもポジティブで生きてます!というような役だったので、変化球が欲しかったところでしたが、そこはウンヌンが貧乏神で自身の存在に悩むという要素があったし、中盤での唇を噛むような悔しそうな表情が日増しに良くなっていて、こういう表情が観たかった!と長尾さんの芝居に魅せられました。素直にすごく良かった。公演期間の前半は「このリビングを自由に使っていいからね」という流れで、日替わりネタがあったのですが、途中から固定になっていましたね。最初はリビングのホコリを掴んでは食べて「20点!40点!」というネタや、椅子を身体に装着して椅子の座面を太鼓のように叩くネタをやっていました。後半からは、ソファーの後ろに隠れて、場所を移動しては頭を出して「20点!50点!2点!あっ、ここ2点かぁ」という謎のゲームをしており、シュールさと勢いが好評でつい笑ってしまいました。けど、欲を言うならばあそこは毎公演完全に変えても良かったんじゃないかなぁと。長尾さんなら出来たのではないかなと今更ですが思ったりしました。あと、ウンヌンとインダラの兄弟コンビが大好きでした!長尾さんと高橋さんは年齢は違いますが同期ですし、「アウタースペース109」ではNASA的な人として、会場の爆笑をさらったコンビとして伝説になっており、(完全に個人的な意見)お二人の息のあった掛け合いは今回もスベリ知らずでした。またどこかでお二人のコンビ芸を拝見出来たらいいな。

 

大村学:香川信輝

最近路線が変わってきていると感じる大村さんは、芸人であり一家の父親の役。そっか、大村さんも高校生の息子を持つ父親の役を演じるようになったのか・・・。大村さんも以前は小柄な体型と可愛らしいお顔を活かした女子役が多い方でしたが、最近では男性の役でも愛されるお馬鹿、といったような役が多かった気がします。今回は芸人の役であった為、要所要所でコメディ色を出されておりましたが、髭を蓄えたワイルドな外見と家族に対してキツく当たる態度等、重みを感じさせる役どころだったのかなと。出来たらもっともっと嫌な父親になっても良かったと思うし、後半の紗綾が誘拐される流れからは、もっと父親らしさを観たかったなぁと。このシーンの春日さんと坂田さんがすごく良かったからちょっとうーん?という感じでした。コメディシーンはやはり上手くて流石でした。マネージャー役の向野さんとの掛け合い良かったなぁ。後半はちょこちょこ台詞を変えてきて「オハヨン様」「おはヨークシャテリア」とか、思わずプッと笑ってしまうネタをありがとう。あと不思議な台詞間違いも多かった。 「不倫現場をフライデーされた?!」を「離婚現場」と言い間違えて本人も「ん?」となったり、ネタ中に「たたんたたんたん」と噛み倒したり、いい雰囲気のシーンで噛んで「◯◯って言っちゃった、笑」と自分で笑っちゃってて、どうか頑張って欲しい。

 

坂田直貴:香川好恵

坂田さんが女性役を演じられることに驚いた今公演。坂田さんも在籍期間が長い方ですし、お芝居も上手いのですが、春日さんと同様、脇のポジションで支える役が多かったので、ここまでがっつり出番があってびっくりしたし、嬉しかったです。本当に古株メンバーの芝居を見れることに感謝してもしきれない、番外公演ありがとう。今井さんありがとう。今までも細かい芝居や安定感があるお芝居をされるなぁと感じておりましたが、今回は坂田マジックを思う存分見ることが出来た公演だったのではないかと。一瞬で表情を変える小ネタやイラツキが最高潮にまで高まり、ソファーで荒れ狂うシーン、掃除機の音を自分で出しながら口だけ動かして、喋っているのを掃除機の音でかき消されるシーン、この人は本当に上手だよねぇと感心しきりでした。ソファーのシーンは思いっきりソファーを殴りまくって、力が強すぎてセットがグラグラ揺れてたので、大丈夫?壊れたりしない?というかむしろ坂田さんの身体無事?と本気で心配するほどに。あれを毎公演、全13公演全力でやり続けた坂田さんアッパレ。坂田さんは母親役ですが、包容力や優しさといった、一般的な母親のイメージではなく、夫のマネージャーやウンヌン、ご近所の人にはいい顔をするが、家族に対しては苛々した態度で当たる、長女の紗綾曰く「嘘ばっかり」な人。その為、感情の振れ幅が大きく、ヒステリックに叫ぶシーンも多かったように思います。今までに坂田さんの演じる役では見られなかった感情的な芝居がたくさん見れて嬉しかった。エンディングの際に、一度だけおにぎりの容器を包んでいた風呂敷で、信輝の口元を拭いてあげていて(ごはん粒が付いてたのかな?)すっごくときめいた記憶があります。

 

株元英彰:香川紗綾

久しぶりの女子役が回ってきましたね。以前はちょこちょこ女子役をやっていた方です。ここ最近はメインポジションとして舞台に立つことが多かったので、思わずガッツポーズ。株元さんは体型も肩幅もがっしりされていますし、声も低め、ご本人は九州男児。なのに女性役をさせるとピッタリはまってしまう不思議。やっぱり上手だなぁ。あと足首が細く綺麗なのも見どころだと力説したい。今回、紗綾声低いかな?と思っていたのですが、カーテンコールでの挨拶等の地声を聞いていると更に低かったので、声作ってたんだと驚いたものでした。株元さんは劇団内では最近入ってきた方ではありますが、今回古株で固められたメインメンバーの中でもしっかりとメインの役を勝ち取っていて凄い。声も聞き取りやすく、感情表現も上手で見入ってしまうお芝居をされる方です。目もぱっちり、鼻も高く、格好良くて華がある方ですし、ギャル系からおとなしめの女子、爽やか男子から可愛らしい男の子まで、演技の幅もあるのかなと。これからもっともっと色んな役を観たいと思わせてくださる方の一人です。紗綾は今時の女の子を思わせる風貌で見た目はギャル系ですが、金髪彼氏に合わせて金髪なのかな。「ママだって嘘ばっかじゃん」「待って!まだ話は終わってない!」等、家族間の関係に疑問を持っている言動が見られたり、離婚だと言い争う両親の間に入っていったり、最後に自分が嘘の誘拐をされた事にして、家族を修復させようとしたのも紗綾でした。ちゃんとお姉ちゃんだったんだなぁ、と不器用ないじらしさを感じます。いつか好恵ママと紗綾が作った手料理を家族で食べたりできるといいね。

 

向野章太郎:吉岡マネージャー

これはもう、向野さんのはまり役だったのではないでしょうか。意外性が無いとも言えるし、安定感があるとも言える。ですが、今回古株メインの舞台として向野さんの立ち位置や、大村さんとの長い付き合いを考慮しても、正解だったんじゃないかなと思います。ちょっとくたびれた感があるけれど、香川家のギクシャク感を気遣い、家族を見守る第三者の立場。公園でウンヌンと輝樹と話しているシーンは毎回大好きでした。ズカズカと土足で人の心に入っていくのでは無く、輝樹の反抗期を理解し、優しく諭す言い方が印象に残っています。あと缶コーヒーを両手でコロコロ転がしたり、公園のキリンの乗り物の頭をポンポンと撫でて「じゃあね」と言いながら捌けるところ。向野さんの胸きゅんポイントだと推したい。向野さんは劇団内で最年長ですし、他の劇団員との兼ね合いもあり、担当する役も仕方なく限られてしまうのですが、物語の中の自身のポジションを理解し、しっかりと演じきって下さるところが好きです。盛り上がっている雰囲気に溶け込めるし、他の劇団員のミスを叱ってくれる。なんて大人なんだろうか。劇団に向野さんがいて良かったって、改めて感じています。

 

園田玲欧奈:ウンヌンの父親

出番は多くありませんでしたが、物語の見せ場となるシーンで重要な台詞を担当されていましたね。ウンヌンが自信を無くし香川家から飛び出してしまった時に、優しく力強く諭したのはウンヌンの両親でした。園田さんは高身長で存在感があり、低音ボイスが特徴的な方ですが、あまりメインには出てくることは多くありません。ですが、こういうズッシリと来る台詞を園田さんが仰られると、重みがあって心に響くような気がします。ご本人はボイストレーニングに通っているとの事ですが(現在はどうか存じ上げませんが)今後、低い声を武器に活躍される園田さんを観たいと思っています。

声が良いって強みだと思うし、滑舌がよく聞き取りやすい発声が更に出来るようになったら、芝居にも深みが出るのではないでしょうか。公演期間の最初の方だけあったネタですが、人間世界と神の世界で会話するシーンでスケッチブックを取り出し「ウソヌソ」→「?」→「ウンヌン!」という謎の小ネタがあったのですが、何度見ても客席はポカンとしており、途中から無くなっていました。あれは無くして確かに正解だったかな。

 

原田新平:ウンヌンの母親

まずは原田さんの役の衣装に驚き、美しさに驚く。外見は貧乏神一家ということで、男性役もボロの服を纏っているのですが、女性役の原田さんは胸丸出し。あれはちょっと照れるし視線をそらしてしまう。ですが、黒のロングヘアー姿の原田さんは目鼻立ちもはっきりされており、まるでベッ◯ーのような外見でした。ヒステリックな好恵ママとは違い、こちらは穏やかで優しく、ウンヌンの父親とも仲睦まじい雰囲気の母親だったかなと。裕福で無くても仲の良い家庭を演じる中で、原田さん演じる母親は家族の中心のように感じました。ウンヌンを信じて見守り、インダラと父親から大切にされている雰囲気が良き母のイメージを上手く出していたと思います。原田さんご自身の人の良さや明るい性格もあり、たとえメインではなくても原田さんの良さが上手く母親役にはまっていたように感じました。

 

高橋秀行:インダラ

神様になる為の卒業試験に3年連続で落ちている馬鹿で明るくて弟思いの兄。それを演じる高橋さんがなんとまぁ楽しそうなことか。ここ最近はシリアスな役だったり、あまり全力でふざけることが出来ない役の方が多かった気がします。ご本人は幸せにするために人を笑わせたいと思っているような人なので、今回は高橋さんもはまり役でしたね。長尾さんについてでも書きましたが、長尾さんと高橋さんのコンビが大好きでして、物語の冒頭部分で長尾さんがボケを振って高橋さんが全力で乗っかる勢い漫才のようなシーンがあったのですが、毎公演分かってるのに笑わせてもらいました。高橋さんはコメディシーンを演じられる時は本当にイキイキしてて楽しそうで、見ていて幸せな気持ちになれます。シリアスとコメディ、どっちが良いとかじゃなくて、どちらもいいからズルい。前回公演の「Have a good time?」のDVDでは苦悩されながら役作りをされている姿が映っていましたし、昨年の「WORLD'S ENDGIRLFRIEND」では息子と折り合いの悪い寡黙な父親役を演じられており、歳を重ねるにつれて、役の幅が広がり深みが増してきたと感じております。やっぱりしゃべり芸は秀逸なので、たまにはこういう役を見ていたいなと思ったりしました。

 

髙頭祐樹:友達役

一番在籍期間が長いメンバーでありながら、今回は端役だったのでちょっと残念でした。いやしかし、33歳で高校生役を演じられた事がすでに見せ場だったのかも?と思うようになりました。普通にかっこよくて違和感は感じませんでした。如何せん細すぎる。今回は神様の世界でのウンヌンの友達と、人間世界の輝樹の友達の2役を担当されておりました。神の世界の役では長すぎる福耳を付けており『七福神・福耳』でぐぐってみたのですが、七福神の殆どが福耳でした。多分布袋尊かな・・・・。一方、人間界の友達役では輝樹との関係は拗れていて、お金をもらって友達を演じ、挙句の果てには「資金源」と陰口を叩く始末。ですが「芸能人の息子じゃなかったら一緒に遊んだりするわけ無い」「金持ちになるまではそんなやつじゃなかった」の言葉から、どちらから拗れていったのかな、と。途中、輝樹の誘いを断り、ふたりきりでキャッチボールしたり学校をサボって動物園に行く東京の高校生の姿に震えが止まらなかった。もう一つの見せ場といえば、輝樹の母親がソファーで荒れ狂う姿を目撃してしまうシーン。髙頭さんが「YouTubeで見たことある」と除霊し始めるシュールなシーンがお気に入りでした。「YouTube見ろよ」「YouTube信頼しすぎじゃねぇ?!」の掛け合いが好き。

 

岩田玲:友達役

こちらも髙頭さんと同様、神様の世界と人間世界の友達役の2役。神の世界での外見は異様に頭が長い神様、福禄寿。「七福神にいそうじゃない?」と小躍りする26歳。人間世界では髙頭さんよりお馬鹿な高校生という感じでした。学校をサボってまで動物園へ行きたいとねだり、自信満々で動物雑学を披露する26歳。ただただ恐ろしい。たぶんこういう憎めないところが岩田さんの愛されるところなんでしょうね。岩田さんも普段はメイン以外の役が多いのですが、番外公演の「トーキョー・タイム・パラドクス」では主演をされており、その時の岩田さんがすごく印象に残っているんですよね。岩田さんの役は普通の大学生で、一方で他メンバーが濃くて、周りに振り回されるようなポジションだったのですが、真っ直ぐで等身大の役だったように思います。猫を被ること無く、無理に大きく見せること無く、ありのままの岩田玲で演じられる役が回ってくるといいですね。

 

城築創:彼氏役

端役に徹されるかとおもいきや、意外とおいしい役だった城築さん。彼氏役の際に客席の通路から登場した時の初日のどよめきは忘れられません。金髪頭に似合わなすぎるロックな服装。挙句の果てには、紗綾との頭一つ分以上の身長差。城築さんのコメディシーンでの正しい使い方。彼氏も紗綾にお金目的で近づき借金があると嘘をつきお金をたかるのですが「私が返してあげる!」という流れから突然ミュージカルが始まります。本当に良い緩急をつけてくるなぁ。公演期間の後半では決め台詞を言う前にクルクルと綺麗なターンを見せていた城築さんが印象的でした。「WORLD'S ENDGIRLFRIEND」では犬役で俊敏な動きを見せており、運動神経の良さが窺えます。もう一つの役が動物園から脱走してきた象の役。公演の前半では香川家の窓から象の鼻だけ出して皆を驚かせるシーンがありましたが、途中からはカットされ、ラストのみの出番となっていました。これが今井さんが仰られていた飛び道具なのかな?色々とお金がかかっている感じが、番外公演としては物珍しさを感じました。

 

小池惟紀:訪問霊媒

メインの役ではなく、訪問霊媒師、カラス、信輝の不倫相手のファン役をされておりました。ほぼ毎回小池さんは端役なので、今回はメインに来るかな?と期待していた為、ちょっと残念。ですが見せ場ももらえていたし、カラス役では笑いも起きていたこともあり、うん、まぁ良かったかなと。輝樹の友達のキャッチボールのシーンでは途中からカラスが乱入する出番が増えており笑わせてもらいました。どこかの日にカラスのくちばしが取れてしまってましたね。直後のパトランプの出番もそのまま出てきておりました。どうでもいいけど、あのカラスはゴーストレイトの時の園田さんが着用していたカラスなのだろうか。訪問霊媒師の役では公演期間の前半はドアから普通に出入りしていましたが、後半からは窓のブラインドから侵入するという演出に変更していました。初めて見た時はびっくりしましたが、訪問霊媒師の押し売り感があって好きでした。帰りも窓から帰ろうとして好恵ママから「そこはちょっと・・・」という台詞も気に入っています。後半では不倫相手のファン役として家族に襲いかかります。その時のイッちゃったような目がすごく良かった。頭がおかしいぶっ壊れた役とか今後もやって欲しい。スベリ芸じゃなくて、狂った演技とかも観たいなと思っています。

 

今井隆文:神の世界の村長

今回、ご自身の出番は最小限にとどめて演出家として徹されたように感じます。出番が多過ぎたらやっぱり良くも悪くも今井さん感が出てしまうのが難しいですよね。今井さんの演出については、劇団のことを誰よりも熟知されているので、やっぱり安心感が先に出てしまうのですが、ご本人にとってもCBGKの演出は初めてですし、色々と大変なこともあったのかなと。結城さんが在籍されていた頃は、今井さんの片腕として一緒に劇団を支えていたり、看板俳優として引っ張っていたように感じておりましたが、今はひたすら今井さんが忙しそうにされている雰囲気をひしひしと感じております。普通の会社だと30歳は若手もしくは中堅ですし、年長者の仕事ぶりを見て成長する部分もあるかと思うのですが、年上もいて、手のかかる年下もいて、未成年のメンバーもいて。心の底からリーダーやるの大変だろうなーと。面倒くさい事を面倒くさがらずに出来るのは才能と努力と、回りのサポートだと思います。劇団員が劇団内での立ち位置が分からない、とか言っている暇があったら劇団内の仕事を効率良く進める為に仕事に励みますように。今井さんが過労で倒れませんように。ただただ願うばかりです。最後にもうひとつ。今井さんが劇団を誰よりも愛して、劇団員を理解してくれてるからこその今回の配役だったと思います。悩む部分もあったかもしれませんが、今回の公演を観劇することが出来て、本当に良かったです。今井さんには最大のお疲れ様を述べたいと思います。